加茂桐簞笥について

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美しい柾目の抽斗(ひきだし)に手を掛けゆっくり引いてみると、ふうっと微かな風とともに、人の手加減に寄り添うように滑らかに反応して開きます。気密性の高い優れた桐簞笥は、抽斗の開け閉めで分かるといいます。その繊細な感触は、熟練職人の伝統の鉋技によって生み出されます。いくら高級な桐材で作られていても、確かな技術をもって製作されなければ、気密性の高い簞笥にはなりえません。

加茂の地で桐簞笥が製造され始めて約220年————、その長い歳月に培われた伝統の技術と精神を受け継ぐ加茂の職人たちは、自分の感覚と経験を頼りに、今日も高品質の桐簞笥を作り続けています。

桐の木と花

桐という素材——奥深い妙趣に溢れる桐簞笥

桐は、神秘的で気品あるものとして平安の時代より親しまれ、湿度を調整し内部の貴重品を護るという優れた性質は、古くから知られ活用されていました。金釘を使わずに組み立てられ、繊細にして力強く、驚くほど軽量でありながら重厚な趣をもつ桐簞笥。何代もの無名の職人たちが技術を磨いて工夫を重ね、現代にまで伝えてきた特別な技術によって製作しています。

加茂の古い地図

新潟県の中央部に位置する加茂は、大昔からさまざまな素材を使った家具作りが盛んな地域でした。信濃川や加茂川の流通経路に恵まれ、材料や製品の船による輸送が早くから確立されていたことが発展を後押ししました。数多くある簞笥生産地の中でも、加茂は地域を限定せずに日本各地の家具の好みを研究し、全国的に波及する商品性をもつよう工夫を重ねてきました。その結果、他の追随を許さぬ日本一の桐簞笥生産量を誇る産地として、全国的に知られるようになりました。

時代の流れとともに——婚礼家具の隆盛から変化する生活様式

百年を超えて知られる加茂桐簞笥というブランドは、婚礼家具、高級家具の代名詞として広く認められています。今では少なくなりましたが、着物文化であった昭和以前の親たちは、娘の嫁入り道具の花形として総桐簞笥一式(衣装簞笥、整理簞笥、帯簞笥、夜具簞笥、座布団簞笥の五点セット)を持たせたものでした。女の子が生まれると生長の早い桐を植え、結婚が近くなるとその桐を使って花嫁道具を誂えるという美しい風習は、全国的に分布していました。

桐板干し

加茂桐簞笥は、天然桐材を三年ほど掛けて天日で乾燥させ渋抜きし、その後の材料取りから組み立て、仕上げまで、工程のほとんどが熟練職人の目と手で行われる逸品です。しかし多くの時間をかけ精魂込めた工程であるほど、儲けから遠のくという宿命があるのもまた伝統工芸品の現実。時代の流れも、洋間の増加など生活様式が多様化し、純粋な総桐簞笥の需要は大きく減ってきています。

組み立て 引き出し

伝統的な桐簞笥と現代的なデザイン——両方を製作できる感性と技術

しかし現代の加茂職人たちは、先人たちがまたそうであったように、この時流の中で自分たちの技を存続させ、さらに進化させるべく工夫を重ねています。現代の生活を意識した新しい桐簞笥や桐製品、モダンチェストのような高さの低い収納も和洋部屋を問わずに映える新しい形です。着物や洋服の収納に限らず、貴重なものを大切に保管するという機能が、現代の消費者の間で再び脚光を浴びるようになりました。

桐簞笥

一方で、昨今の国内外における日本文化ブームに伴って、精魂込めて製作される伝統工芸の銘品とその技術に注目が集まり、脈々と受け継がれてきた純和風総桐簞笥もまた見直されています。従来の優れた機能性に加えて新旧のデザインバリエーションが豊かになったことで、現代でも幅広い世代が憧れを抱く、人気の収納家具となりました。

鈴木石太郎タンス店は、加茂桐簞笥の老舗です

私たちは、純和風の伝統工芸品 総桐簞笥を得意としながら、現代生活にフィットした桐簞笥のデザインも数多く発表しています。良質な国産桐材にこだわり、素材の準備から仕上げまで当工房で一貫して製作しています。伝統を忠実に継承する職人気質と、切磋琢磨する新しい工夫の精神を持って、日々桐簞笥・桐小物の製作を行っています。

工房にはギャラリーも併設していますので、ご予約のうえご来訪ください。各種桐簞笥、桐製品に関するご希望を、製造者に直接ご相談いただけます。メールでもご質問を承りますので、お気軽にご連絡ください。